【レオラギ】この場所で咲く(R15)

「この場所で咲く」
文庫/80ページ(表紙等込)/600円(会場頒布価格)/R15/レオラギ

サンプルは四章構成のうちのプロローグにあたる最初の一章です。

レオナとラギーが戦争に巻き込まれて離れ離れになったり再会したりして

戦後農業を始める話。ハッピーエンドです。

内容は全年齢相当ですが、多少露骨・下品な表現が含まれるためR15としています。

エロらしいエロはありませんがレオラギに肉体関係があり事前事後の描写があります。

・独自設定多数、名前ありなしモブ多数

・カップリングはレオラギ 一部チェカ→許嫁の記述あり

・原作キャラが人を殺している

・風呂に入っていない状態での青姦、孕ませたい発現 など

・かなり前に考えていた話なので時世について言及するものではありません

・曾孫とするべきを孫としてしまっている部分があるため、正誤表を挟んで対応とさせていただきます。



 それは特別な時でもなんでもなく、いつも通り昼休みを植物園で過ごしている時だった。

 多少の入れ替えはあるものの、この植物園でどの季節にどの花が咲くのかをレオナもラギーももうよく知っていた。元は自然の多い故郷をなんとなく思い出させるから気に入った場所だったが、今はここならではの空気に居心地が良いと感じている。それだけここで過ごす時間を積み重ねてきていた。

 その日もラギーが買ってきた昼食を二人で食べ終わり、いつもならレオナが昼寝に入るそのタイミングで、レオナがラギーの手の上にそっと手を重ねた。

 遠くで生徒の誰かの笑い声が聞こえる。いつもの昼休みと全く変わらない植物園で、レオナのしたことだけが特別だった。

 予想もしていなかったその行動にラギーは一瞬驚いたが、冗談で自分から他人に触れるような人ではないことはよくわかっていたから、茶化す気にはなれなかった。

 レオナは余計なことは言葉にしないし、ラギーが自分で答えを導き出せるように、あえて答えを言わないところもある。不満や不平をあえて皮肉で表現することもある。思っていることをそのまま言葉にする能力はきっと高いにも関わらず。

 何を言っても上手くない気がしてラギーはそのまま黙っていた。体格のわりに手はそこそこ大きいつもりだったが、それよりさらに大きいレオナの手の温かさが、全く不快ではなかった。

 どのくらいそうしていただろうか。

 いつもの植物園で、嗅ぎなれた緑の匂いが、花の香りが、いつもより強くなったような感じがしたから、ラギーはレオナが手を重ねていないもう片方の手を、レオナの手の上に乗せてみた。

「何だよそれ」

 やっと口を開いて、苦笑混じりにレオナがそう言った。

「レオナさんこそ」

 自分が言葉にしないくせに、言わせるのはずるいとラギーは思った。

 幼い子供がじゃれているような、そういう遊びをしているような不思議な体制のまま、レオナは両手のふさがったラギーの顔を覗き込むようにして、そのままそうするのが当たり前みたいに口づけた。

「嫌か?」

 してから訊ねる傲慢さはもう馴染み深いものだが、そういう人が、孤高であろうとしてきた人が、ラギーの意向は無視することができない時があるのは、最近ラギーにもわかるようになってきた気がしていたし、わかることができたらいいなと思っていた。

 そういう思いをレオナに伝えるには、今のラギーはまだ言葉を知らなかった。

 能力があるのにそれを行使しない者と、能力がないことに甘える者、どちらがより罪深いだろうか。

 そんな難しいことはわからないが、今できることはこれだけだからとばかりに、ラギーは一番上にある自分の手にしっかり体重をかけてぐっと体をのばしてキスをし返した。

 雄弁さでは負けていてもキスの上手さは五分五分だと思いたかったし、これならフェアだろう。そう思って唇を離してレオナの顔を見たら見慣れた緑の瞳が見たことのない揺れ方をしていて、ラギーは思わず顔が熱くなった。

 自分が王と決めた人にこんな顔をさせた優越感と高揚感、そしてこの人はこんなにも自分のことが好きで、自分はこんなにもこの人のことが好きだという自覚で脳が焼ききれそうになる。

 花の香りがむせ返りそうに強い。

 レオナは空いた方の手をさらにラギーの手に重ねて、そのまま両手でその手をとり、そしてラギーの目を見て言った。

「……俺の隣にはお前にいてほしい」

 それはここで言うには甘さの足りない言葉だったが、それでも普段のレオナの口からは決して出てこない言葉だったし、めったに聞けない心からの言葉だとラギーは思った。

「はい」

 シシッと笑って即答したら、レオナは見たことのない優しい顔で笑った。

 いつもの自信ありげで、偉そうな笑った顔はもちろん好きだが、こういう顔も好きだな、とラギーは思った。

 恋愛という要素を含まないところまで範囲を広げたとしても、レオナにとって気のおけない相手というのは本当にいなかったのだろうとラギーはレオナとそういう関係になってから改めて実感することになった。

 雇用主としてラギーを使うときには遠慮がないのに、恋人としてのレオナは以前から時おり見せていた通りラギーがなにを考えているのかを無視できなかった。傍若無人に振る舞うくせに、ラギーの言動に拒否の色がないかを確かめている。

 人を使うのに慣れているレオナのことだから、有償の性欲処理相手ならきっともっと上手くやれる。相手が何を思うかなど気にせず、自分が望んだ行為に対してケチらず、されど与え過ぎず報酬を渡せばよいのだ。

 ラギーも恋愛経験豊富とは言い難かったが、レオナのことはよくわかっていた。

 すぐそばに他のマジフト部員がいるところでキスされたときも、額に執拗に口づけられたときも、初めて口内を好きに蹂躙されたときも、レオナは自分がしたいようにした後でラギーが嫌がっていないかを確認した。

(オレは全然嫌じゃないんだけどなあ)

 嫌じゃないどころかレオナに好きにされるのは気持ちがいいとすら思う。初めは健康な男子高生としてそういう行為に夢中になっているだけだと自分に言い聞かせていたが、回数を重ねるごとに行為そのものというよりレオナの好きにされることに満たされていることを否定できなくなってしまった。

 それは食欲を満たすことによく似ていた。ラギーの中の何かを欲する心が、レオナの支配によって満ちていく。自分の体と魂が、最初からそう作られていたことに気づくような感覚だった。そして食欲と並べて考えるなら、それの正体はおそらく性欲といえるのだろうとラギーは思った。

 やられたらやり返せの精神で生きてきて被虐趣味とは無縁だと思っていただけに自分は淫乱マゾなのかと一瞬悩んだりもしたが、それ以上に嫌ではないことをレオナに伝わるべきという気持ちと伝わると恥ずかしいという気持ちの板挟みの悩みの悩みの方がラギーにとっては大きかった。

 初めて体をつなげるとき、既に押し倒された後ではあったが、今回ばかりはする前に嫌かと訊かれた。

 ラギーは好きを隠すのは財布をスるみたいに器用にはできないし、レオナは頭が良いのに、それでも嫌なわけがないということを本人に確認せずにはいられない。この人はまだそれを訊く。

 自分の手首を掴むレオナの手を、すり、と肯定的な意図をもって指で撫でてやる。

「嫌じゃないッスよ。抱いてくださいレオナさん」

 想いを口にするのは、いつの間にかラギーのほうがずっと上手くなっていた。

 欲しいものはだいたいのものが手に入るように見えて、一番欲しいものが手に入れられなかった人。だから全てを諦めていた人。

 そんな人が欲しいと願って手に入れることができたものが自分なんだとラギーは思った。その自惚れをくれたのもこの人だった。

 学がなかった自分に勉強を教えてくれたレオナは随分気が長かったと今にしてラギーは思う。勉強と違ってタイムリミットはないのだから、ラギーはレオナのもので、ラギーにとってもそれは願いだということは、これから時間をかけて今度は自分が教えていかなければならない。

 緑の瞳に未だ安堵の色は浮かばない。だが明確に誘われてそれを跳ね除けるほどお人好しな男でもない。

「いいんだな」

 最後の念押しにラギーが頷けば、あとは獣の在り方を体に宿すもの同士、お互いをひたすらに貪り合うだけだった。

 レオナが卒業するとき、ラギーは思っていたよりも寂しくないなと思った。

 もう朝起こしたり、昼食を調達したり、夜食を作ったり、そういうことはしばらくなくなるという実感があまりわかなかったし、これが永遠の別離というわけでもない。

 お互い今までより忙しくなるけど、時間を見つけて好きなチームのマジフトの試合を見に行ったり、食事を奢ってもらって近況報告したり、外泊は難しくともそういう場所にしけこんだり、世間一般の恋人たちがしているみたいなことをしていけばいい。きっとそれだって楽しいし、その先の未来を諦めるつもりも二人にはなかった。

 自分の人生の正念場でもあるし、自分の足でしっかり立てるようにしなければならない。レオナの隣に立つつもりならなおさらだとラギーは考えていた。

「毎朝モーニングコールしなくて大丈夫ッスか?」

「ばぁか」

 そんな軽口を叩き合って、また明日とでもいうような空気でラギーはレオナを見送った。

 思い描いていたデートどころか、会うことすらできなくなるなんて、この時の二人は想像もしていなかった。

 嫌な暑さが、体を包む式典服の中で渦巻くような日のことだった。

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