2023.09.25 12:29ボーダーライン 車の運転という行為は対外的には趣味だとか息抜きだとか言っていたが、その本質は逃避であるということはレオナ自身にはとっくにわかっていた。 広い草原を走っていると、嫌なものは目に入らずいるのは動物たちだけで、まるで自分だけの王国みたいだ――というのが運転免許を取得できる自分の年齢にあまりにもそぐわない感傷で笑ってしまう。それでも自分のいる面...
2022.10.25 13:37My Sweet スラムの中でも酒場や娼館の立ち並ぶあたりから離れた居住区は夜間早めに灯が落とされる。その燃料がもったいないからだ。電気は通っていないこともなかったが、こちらもタダではない。それならばさっさと寝てしまってまた日が昇ってから活動を始めた方が良い、というのが夜の街では働けない者たちの生き方だった。 だが、そんな場所が今日は夜更かしをしている。...
2021.06.05 15:00特製スペシャルラーメン950円「うわあうまそうなにおい」「俺ラーメン屋で食うの初めてかも」 臙脂色の布に白い文字で「ラーメンふとし」と書かれたのれんをくぐって店内に入ってきた若者たちは、はしゃいだ様子で四人掛けのテーブル席につき、簡素なメニュー表を見ながら注文を検討し始めた。 この島には名門魔法士養成学校が二つもあるが、全寮制ということもあり平日日常的に街が学生たちで...
2021.05.14 15:00過去から、未来につなぐ パーティーの終わりはどことなく寂しい。 寮の談話室で開かれた誕生日パーティーで、ラギーはたくさんのごちそうをたいらげ、目論見通り今までプレゼントを渡してきた連中からのお返しを受け取り、他愛のない話で盛り上がり、写真を撮ってはマジカメにアップし、楽しいと思える時間を過ごした。そこから喧騒が落ち着き、じゃあそろそろお開きにしようかという空気...
2020.12.20 15:00幸せのかたちについて 長いこと朝日はオレにとって、昨日を生きのびてまた自分の命が少しだけ延長されたことを告げるものだった。 それが幸運なことに名門魔法士養成学校に入学して、生きるために必要な力をつけて、明るい未来のようなものへの道筋が少しずつ見えてくるようになってから、あまり眩しくなくなっていって、日常にとけこんだものになった。 その光があたたかくていとおし...
2020.11.19 15:00キス 唇をあわせることがこんなに気持ちいいなんて知らなかった。 レオナさんはキスが上手い。まず今からするという宣言を目だけでするところがずるい。それからそっとオレの顎を持ち上げてやさしく食むように口づけてくる。日ごろあれだけガサツで、オレを雑に扱うくせに、キスの仕方は物語に出てくる王子様のそれだ。最近はわざわざ手袋を外してオレの頬にも触れるか...
2020.09.18 15:00例えばの話 例えばの話、ここが共学で、オレが女の子で丸く柔らかいからだを持っていたら、この人の世話の内容に性欲処理が加わったりしていたのだろうか。人に片付けを任せたままぐっすり眠っているレオナさんの顔を見ながらあり得ないことを夢想してみる。整ったきれいな顔。王族。ハイスペック。例え女に生まれていたとしても、この人に選んでもらえるとは思わない。ただ、...
2020.08.14 15:00友情論(偽)「レオナとラギーは友達なのか?」 寮長会議が終わったあと、なんとなく聞いてみた。レオナが報酬を支払って、ラギーが従う。でもレオナが間違ってると思えば、ラギーは反論する。よく二人でいて、同じ方向を見ているようにみえる。そこに友情はあるのか、今のオレは知りたかった。「あぁ……? なんでそんなこと聞くんだ」 レオナはマジフト大会あたりから、少し...
2020.07.26 15:00たんじょうびのうた 出かけてくる、と一言だけの書き置きと、不在がばれるまでの時間稼ぎのちょっとした細工を残してレオナは王宮を出た。空気が冷たい。時計を見ると、ちょうど日付が変わったところだった。 夜が明けてからの予定はそこそこ重要なものだった。それをすっぽかしてこんな深夜にこそこそと抜け出す目的が、あまりにも子供じみていることがおかしかったが、気分は高揚し...