【レオラギ】インザルーム(3/19新刊)
「インザルーム」
文庫/60ページ(表紙等込)/ 300円(会場頒布価格) / レオラギ / 全年齢
3/19春コミにて発行予定の小説本のサンプルです。
サンプルは本文の一部です。
付き合っていないレオラギがセックスしないと出られない空間に閉じ込められる話です。
願望の成就への忌避とか求める相手が世界を内包するかとか相手は知らないだろうけどめちゃくちゃ好きってこととか。
手を出したいけど大事にしたいし自分に都合がよすぎて調子が狂いまくりのレオナと性的なことに興味深々でレオナさんになら全然抱かれてもオッケーはやくはやくなラギーなので混乱してるレオナや積極的な受けが苦手な方はご注意ください。(ラギー童貞処女明記ありです)
・レオナ視点がメインの話です
・エロなし事前事後と行為の有無のみ
・名前ありモブががっつりからむ
・捏造ご都合魔法
東4ホール42b sawa で参加します。
開始時離席するため取り置きを受け付けています。(なくならないと思います)
wavebox から
お名前(HNでOK)/ 本のタイトル / 冊数 をご連絡いただければと思います。
お越しの際に取り置きした●●(お名前)です、とお伝えください。
感染症対策をしながらの頒布となります。ご協力お願いいたします。
イベント後通販予定です。
通販↓
目玉焼きをのせたハンバーグに付け合わせの野菜が少し、適当な具を入れたスープと丸いパンの簡単な食事がテーブルの上に並ぶ。ハンバーグのソースはケチャップベースの子供向けのものだが、成人済のレオナはそれには特に不満はなかった。
「野菜もちゃんと食べてくださいよ」
エプロンを外しながら椅子に座り、それらの料理を作ったラギーが咎めるように言う。
「いきなり食べ物が手に入らなくなる可能性もゼロじゃないッスからね」
付け足すようにそう言うとラギーはいただきますと手を合わせて目玉焼きの黄身にフォークを突き立てた。半熟の中身がとろりと流れ出す。
「食料以外にも心配することはあると思うがな」
優雅な所作でハンバーグを切りながらレオナは答える。
「オレは餓死が一番嫌ッス」
真剣な顔をして言うラギーのぎゅっと寄せられた眉間を、コイツらしいなと思いながらレオナは黙って見つめていた。
ありふれた日常を切り取ったような食卓に、声色こそ平時と変わらないがその会話の内容には不穏なものが混じっていてそこには奇妙なアンバランスさがあった。
二人が今いるのはいつもの寮長室ではなく、モノトーンを基調としたシンプルな内装の広めだが特に何の変哲もない1LDK。ここから出られなくなってから十時間ほど経過していた。
◇
目が覚めるとレオナとラギーの二人は見慣れぬ部屋にいた。ソファで二人並んで座って微睡んでいたところから覚醒し、それぞれ昨晩は自分のベッドで眠りについたはずがなぜ隣にお互いがいるのかとしばらく無言で見つめ合った。おかげでそもそもここはどこだ、という疑問が浮かぶのが少し遅れた。すぐには何が起こったかわからず昨夜寝る前の記憶を二人で辿ったが確かに寝床についた魔力ところで記憶は途切れている。
揃って夢遊病にかかり見知らぬ部屋まで歩いてきたか、それとも何者かに誘拐されて連れてこられたか―。だがすぐに落ち着きを取り戻したレオナの魔力走査によって部屋そのものが何らかの魔法によるものであるということがまずわかり、次に玄関のドアもバルコニーに面するガラス戸も開かず部屋から出られないということと一通り魔法が使えるということが同時にわかった。部屋から出られないことの確認には当然多少の粗暴な手段も使ったが徒労に終わってしまったのである。
明確に危害を加えてくる仕組みが差し当たっては存在していないと考えた二人はそれから部屋の捜索を開始した。目が覚めたときに寮服を着ていてマジカルペンも所持していたがそれぞれのスマホはなかったため、救助要請を送ることは早々に諦めた。
まずラギーがキッチンで水道とガスが使えることと冷蔵庫や戸棚に食材が入っていることを発見した。
レオナは止めたが自らの胃腸の強さに自信のあるラギーは菓子類の入った籠にあったビスケットを朝食代わりに頬張り、ここにある食べ物は「食べられる」という判定を下した。当面の食べ物の心配がないことに安堵したのか鼻歌まじりでトイレへ移動し、水が流れることとトイレットペーパーが備え付けられていることを確認後、バスルームには購買やドラッグストアで見かけるメーカーのシャンプー類やボディソープ、洗顔フォームが揃っているのも見つけた。洗面台の下の収納には各種掃除用洗剤も入っていた。
一方レオナは引き戸を開ければリビングと一体になる寝室を調べた。寮長室にあるものとそれほど変わらない大きさのベッドは一般的な単身者向けに見えるこの間取りの寝室に置くにしては少し大きすぎるように思えたが、サイズ以外は特に変わったところはなく、クローゼットには何も掛かっていなかったが衣装ケースの中には下着が少しとパジャマ代わりなのか二人分のバスローブが入っていた。
それ以外には以前ラギーが欲しがっていた自走式の掃除機が充電されていてスイッチを入れると張り切ったように動き始めたが、これも家電以上の要素はなかった。
「レオナさーん。なんかありました?」
「勝手に動く掃除機あったぞ」
「マジで⁉ 持ち帰れねーかな」
「その前にここを出ないとだろ。そっちはどうだったんだよ」
「収穫は食い物があることくらいッスね。三日分くらいは余裕でありました」
レオナがはあとため息をつく。出られないことと物理的な破壊が難しいということ以外は本当に普通の部屋なのだ。
今は様子を見るしかない、という結論に至り、リビングのテレビに接続されたテレビゲームで暇をつぶし昼食はラギーがオムライスを作った。ここで4つ分空いたはずの卵ケースがいつの間にかいっぱいになっていたことで消費した食材は何らかの力で補充されることもわかった。
悪意が見えない分目的がわからず、それがかえって気味が悪いとレオナは思った。
午後はまた簡単に捜索を行ったり細部を調べたりしたが、それほど広い部屋でもないため新しい発見もなく、すぐに切り上げた。ラギーはリビングの本棚にあった一昔前の少年漫画を読み始め、レオナは寝室のサイドボードにあったサイエンス誌をぱらぱらとめくっていた。
そして夕食の時間が近づいたところでラギーは再びキッチンに立ち料理を作り、ハンバーグメインのディナーが完成したのだった。
慌てても仕方ないとばかりに状況に適応した振る舞いをラギーができたのは、意図も意味もわからないこの状況は何らかの不具合による事故と捉えたからだ。事故ならば起こした当事者が解決するのを待つしかないし自分以外の第三者がなんとかするだろうと考えた。そうっいたことは学園生活の中でしばしば起こることだった。
そしてレオナが普段通りに振る舞ったのはそうせざるを得なかったからだった。
ラギーには伝えていないレオナの発見したここを出るための手がかりになるもの。きちんとたたまれたバスローブの上、それからサイエンス誌の目次のページの間には同じ内容のカードがあった。
そこにはラギーでは読めないであろう古い言語でこう書かれていた。
ここから出る方法はとても簡単。
二人で体を結べば良し。
この出られない部屋という現象が誰かの意図によるものなのか偶発的なものなのかはわからないが、あまりにも自分に都合の良いその内容に、レオナは怒りよりも吐き気のようなものを覚えた。
◇
「レオナさーん、起きてくださーい」
いつものようにラギーの声でレオナは目覚めたが、そこは見慣れた寮長室ではなく知らない寝室のままだった。
「朝食食いますよね。適当に作るんでちょっと待っててください」
それだけ言うとラギーはキッチンの方へ忙しない様子で歩いていった。
授業に出られるわけでもないのだからレオナを起こす必要はないはずだが、ラギーにとっては既に習慣となっているからなのかそれともレオナの様子を見たかったからなのかわざわざ声をかけにきたのでレオナも素直に体を起こした。
一つしかないベッドは二人で横になれるサイズではあったが、その選択肢は少なくともラギーにはなかったようでリビングのソファで寝るからといってレオナにベッドを譲った。実家のベッドに比べたらこのソファで十分と言ってそこにあったひざ掛けを被ってさっさと寝てしまったラギーの図太さにレオナは呆れたが、いつ出られるかもわからない以上無駄に体力を削っても仕方ないということもあり、危険が迫ったら起きられるように簡単な魔法を施してから譲られたベッドで眠ることにしたのだった。
リビングに出るとレオナの目に入ったのは昨日はなかったはずのランニングマシーンだった。
「なんだこれ……」
レオナが思わず呟くとキッチンの方からラギーが応える。
「あ、それ朝になったらあったんスよ。昨日運動不足になりそうとか言ったからかなあ」
確かに昨日食べ物の補充に気づいたときにそんな話をしていた。
「迂闊に欲しいもの口に出すとこの部屋いっぱいになりそうッスね。もしかしてそういうトラップとか?」
欲をかけば部屋が埋まり潰されて死ぬ、という仕組みであれば、子供向けの教訓めいたおとぎ話にありそうだった。実際の部屋の脱出条件は子供向けどころではないことを考えるとそのほうがいくらかマシだっただろうと物欲に乏しいレオナは思う。
「とりあえず出る方法がわかんないことにはなあ」
そうぼやいてはいるが同時にラギーの方からはトントンと包丁の音が聞こえてくる。昨日からずっと得体の知れない空間に閉じ込められているという状況に似合わないラギーの落ち着き方に、レオナは違和感を感じていた。最初は食の心配がないことで気が緩んだのかと思ったが、ラギーの性質として危険やよくわからないものへの警戒心というものはそれほど簡単に解かれるものではないはずだった。
では今ここにいるラギーはレオナのイマジネーションを元にした偽物ではないかという仮説のもと観察しているがどうにも本物としか思えない。動じていない状態のラギー・ブッチとしては完全に本人なのだ。自分に都合のいい夢の具現化と言い切るには現実との乖離がなさすぎる。
考えても仕方ないとレオナはキッチンの横を通り過ぎて洗面所に向かい身支度を整える。昨夜使ったタオル類も新しいものと交換されてふわりとした状態できちんとたたまれてそこにある。見えない使用人が存在するかのように至れり尽くせりだ。
そのサービスの良さにやはり目的がわからないと不審感を持つが、よく考えてみれば食事に関しては調理されたものがそのまま出されるのではなくラギーの手を介しているというのもレオナにとっては好ましい状況だった。食事という行為に意味を与え、味覚に関して初めて好ましいという気持ちを抱くに至ったラギーの作る料理を堪能できる環境、その構成要件に自分の願望が関わっていないと言えるのか、レオナはまた暗澹とした気持ちになる。
もし今のこの状況を作り出しているのが自分の夢想とそれへの欲求だとしたら。
リビングに戻るとサラダとハム、トースト、お馴染みの雑多な具入のスープの朝食が並んでいた。
「卵ゆでようと思うんスけどレオナさんもいります?」
オレ二個食べちゃお、と弾んだ声で続けるラギーはレオナの逡巡には気づいた様子は全くない。
その問いには答えずにレオナはラギーに別の質問で返すことにした。
「ラギー」
「はい? スクランブルエッグのがいいッスか?」
「お前本物のラギーか?」
言い終わってからやはり訊くべきではなかったかと何故か一瞬後悔した。
ラギーは口をぽかんと開けたままフリーズしていた―がすぐにきゃんきゃんと騒ぎ始めた。
「ホンモノのオレ⁉ レオナさんオレのことニセモノと思ってたんスか? 出されたメシばくばく食ってベッドでぐっすり寝てくつろいでたくせに⁉ そんなことあります⁉」
そしてはっと気づいたような顔をした後に目を眇めてレオナを睨み
「というかニセモノの可能性があるってことはアンタこそもしかしてニセモノなんじゃないッスか? 確かにホンモノのレオナさんにしては疑いを向けてるヤツに気を許しすぎのような……」
と言ってぐるると威嚇を始めた。レオナが見たかった反応だった。
「本物だな。今わかった」
「はあ?」
わかったならいいッスけど、とまだ腑に落ちない様子のラギーだったがひとまず落ち着きを取り戻してレオナの説明を待つ構えになった。
こういうところが好ましいとレオナは思う。右腕として従順という言葉はラギーには似合わない。だがいつだってレオナの話に耳を傾けて理解しようとする。王宮では決して向けられることのなかったその眼差しに応えることが、レオナにとっては楽しみでもあり安らぎでもあった。切り捨てて傷つけてなお自分の側にいることをやめなかったハイエナに、レオナはこれまで他人に抱いたことのない執着を感じると同時に相反する大切にしたいという思いも湧いてしまった。
他人にそれを気取られるような男ではなかったが、レオナは確かに恋を患っている。他人に渡したくなくてその輝きを曇らせたくない、というその気持ちが、高価なアクセサリーや貴重な古書のようなモノへ向けるそれとは違うことくらいとうに自覚している。その相手と閉ざされた魔法空間に閉じ込められてその解除条件が肉体関係を結ぶこと、と提示されれば普段の冷静さや賢さの出力が狂うのも仕方がないと言える。
だが他でもないラギーが、納得のいく説明をしてくれるはずだという信頼を普段通り寄せるのであれば、レオナはこの部屋の仕組みについては正直に話すしかないと観念した。
ちょっと座れ、と呼ぶとラギーは不思議そうな顔をしたが、軽く手を洗ってエプロンをつけたまま大人しくダイニングテーブルのレオナの向かいの席につく。
それからレオナはラギーには読めない文言の書かれた二枚のカードを差し出して、その内容を訳して教えた。
◇
「つまりエッチしたら出られるってことッスか?」
「あけすけに言うんじゃねえ……」
レオナは思わずこめかみに手をやる。その条件を理解してなおあっけらかんとしていられる様子に貞操観念が心配になる。
「お前経験は」
「オトコとしてもオンナとしてもないッス」
「あのな……。ならもう少し動じろ。なんなんだその落ち着きは」
「そうは言ってもレオナさん出られないと困るんじゃないッスか? オレのケツの犠牲で済むならまあいいでしょ」
初めてなんで優しくしてください、とふざけたぶりっ子ポーズまでするものだからレオナはまた深いため息をつかざるを得なかった。
自分が抱くつもりではあったが、相手もそのつもりだと言われると本当にそれで良いのかと言いたくなる。そしてまた自分に都合が良すぎるという不安感に襲われる。これまでの人生で逆境や理不尽に慣れすぎているレオナは思いがけぬ幸運に弱かった。
「オレじゃ勃たないッスか? あ、だからこれオレに言いにくかったのか」
「そういうことじゃない」
「じゃあどういうことなんスか」
テスト勉強の応用問題を解いているときと同じような、何が問題なのか心底わからないという顔でラギーが問う。むしろ普段勉強を教えているときのようにレオナが故意に答えをはぐらかしていると思っている節すらある。
そして生来のせっかちな性格によってしびれを切らしてラギーは言った。
「レオナさんが何考えてるかわかんないんスけど、一生こんなところにいるつもりッスか? オレはそんなの同意できないね。レオナさんがあんまり焦ってないからそのうち出られるとかなのかなと思ってオレも満喫してたッスけど……。こんなところで終わる男じゃないでしょアンタは!」
「お……」
俺のためかよ。ラギーの剣幕にレオナは面食らって言葉を発せなかった。ラギーには大切にしたい家族がいる。授業に出られなくて単位を落とすとか、バイトのシフトをすっぽかしてしまうとか、そういう懸念だってあるだろう。この部屋の外とのつながりが強いのは自分よりもむしろラギーなのではないかとレオナは思う。それなのに真っ先に口にする外に出る理由が自分だということに衝撃を受ける。
「……俺だってお前を出してやりてえよ。お前のばあさん泣かせるわけにいかねえだろ」
「じゃあさっさとヤって出ましょうよ。さっきそういうことじゃないって言ったってことはオレのこと抱けるんでしょ。体とか声とか女の代わりにはできないと思うけど……。オレ頑張るんで―」
「大事にしたいんだよ!」
遮るように声を荒らげてしまったことにレオナは本当に調子が狂っていることを自覚する。人生で一番情けない姿をよりによって一番見せたくない相手に晒してしまっている状況に目眩がしてきた。
今度はラギーのほうがぽかんと口を開けていた。それはそうだろう。普段のレオナならさっさと済ませて部屋から出る選択をするはずだ。いつまでも安全である保証もない部屋に居続けることと男の貞操を秤にかけて大事にしたいからできないなんて感情論を展開する男ではない。
沈黙が流れる。オーブントースターのタイマーは切れて時間がたってしまい焼けたトーストが冷めたまま残っている。作りかけの朝食がその場に残ったまま時間が止まってしまったかのようだった。
そして先に口を開いたのはラギーの方だった。
「オレはいつかレオナさんに抱かれると思ってたから、本当に嫌じゃないッスよ」
ぽそりと呟かれたその言葉がレオナの心に染みていく。
きゃんきゃんとうるさかったり、詰めが甘かったり、そういう部分もたくさん知っているが、この男がたまに今しているみたいな顔立ちや年齢に見合わない大人びた顔をするのをレオナはよく知っていた。
曇天を映した水面のような色をしたその瞳はまったく揺らいでいなかった。
それを自分のものにしたいという強い衝動に駆られて、レオナはテーブルの上に身を乗り出してラギーの頬に手を添えると、唇同士を軽く合わせた。
「―大事にしたいって言ったくせに」
「悪いな。したくなったからした」
「暴君ッスね」
それには返事をせずにレオナはもう一度、今度は深めに口づけた。ラギーが器用に合わせるので気分の良くなってきたレオナはさらに貪り続けたが、息継ぎがうまくできなくなったラギーに肩をとんとんと叩かれて離れた。
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