【レオラギ】最高の休日(7/24新刊)

「最高の休日」
文庫/40ページ(表紙等込)/ 300円(会場頒布価格) / レオラギ / 全年齢

7/24(日)レオーネに安らぎを 星に願いを。2022 内にて発行予定の小説本のサンプルです。

サンプルは本文の一部です。

二章後、元通り寮長とお世話係に戻ったもののなんとなくすっきりしない二人が、レオナのプレお見合いパーティーをサボって遊びに行き、お互い好きだと言うまでの話です。

レオラギが普通の高校生っぽいデート(まだ付き合ってない)をします。


東6ホールな30a sawa で参加します。

感染症対策をしながらの頒布となります。ご協力お願いいたします。

イベント後通販予定です。


「レオナさーん。ご実家から手紙届いてましたよ」

 その手に持った手紙をひらひらとさせながら、ラギーが勝手知ったるレオナの部屋に入る。

 もう片方の手には取り込んだレオナの分の洗濯物の詰まったカゴを持っていて、これからここでアイロンをかけるつもりだ。

 スマホで連絡できる時代に手紙というアナログな手段でやり取りする生徒は少なく、それしか連絡手段がないスラムの祖母とやり取りするラギーが寮内ではそこそこ頻度が高い方で、王室とのやり取りにおいて格式張った事情により手紙が送られてくるレオナも同様だった。

 そのため自分の手紙を確認するついでにレオナ宛の郵便物を共有のポストから持ってくるのは専らラギーの役割になっていた。

 王家の紋章のシーリングのされたそれをレオナはラギーにはわかる程度の嫌そうな表情をして受け取ると、そのままテーブルの上に無造作に置いた。

「いいんスか読まなくて」

「ああ。内容は事前に聞いてるからな」

 実家絡みの用事はいつも面倒そうにしているがなんだかんだレオナは召集に応じている。だから今回も「いつものこと」としてこの手紙の件は処理されるはずだった。

「……」

 何かが喉のあたりにひっかかってしまったように、関係も興味もない「いつものこと」として手紙の話をおしまいにして他の話を始めることがラギーにはできなかった。

 今のラギーは王族として生まれたレオナがうらやましい思いばかりしてきたわけではないことも知ってしまっている。その嫌そうな顔の意味するものが、ただの怠惰ではないことを。

「んな顔すんなよ」

 レオナはラギーの考えていることなどお見通しとでも言わんばかりに言い放つ。こんなことはなんでもないと、そういう声だ。

「オレそんな変な顔してました?」

 ニッと笑ってそう返せば、今まで通りの何も知らなかった頃のままの二人の空気になる。お互いにそういう距離感の作り方が上手いというのは、寮長と世話係としての関係を長く続けてくることができた理由の一つだと言える。

 その空気にレオナの表情が先程より少し緩む。

「見合いとまではいかねえが、その候補との顔合わせ兼ねたパーティーだとよ」

 いつも通りのくだらないという口調と態度でレオナが言う。

 そしていつも通りなら、ラギーは当たり障りのないようにそのきらびやかな予定をうらやましがるなりして、土産をねだって、一緒にくだらないとバカにして笑い合って―と続くはずだった。

「ラギー?」

 レオナが何も言わないラギーの様子を伺うように見る。

 そこには上手く笑えずにいるラギーがいた。もう少し正確にいうと、笑うことを拒否するかのような顔をしていた。

 今までこんな風になったことはないのに、とラギー自身も思った。いつもすらすらと出てくる場をつなぐための言葉たちが嘘みたいに体の中に閉じこもって出てきてくれなかった。

 笑って返すのをレオナが求めてると思ったから今までそうしてきたのに、今日はラギー自身がそうしたくないと思ってしまったのだ。

「……腹減ったな。それ終わったら何か作れよ」

 ぎこちない沈黙をかき消す言葉。上手く返せなかったことも余計な気をつかってしまったことも、そしてそれを隠せなかったことも、レオナは責めなかった。

 そのことでラギーの中の何かがプツッと切れた。すっと立ち上がってレオナの前まで歩み寄る。

「レオナさん」

「なんだよ」

「フケましょう」

「は?」

 あまりにも唐突なその提案に一瞬今は明日の授業の話をしていたか? とレオナは錯覚しそうになるが、目の前のどちらかといえば幼さの残る顔立ちの男は真剣な顔をしている。

 へらへらと笑って流す術も知っているくせに、これだけは絶対にというものにはしがみついて食らいついて離さないことをレオナはよく知っている。

「フケるって……。非公式の集まりとはいえ王室からの召集だぞ」

 突然そんなことを言い出した真意は見えないものの、宥めるようにレオナは言ってやる。

 今までラギーが家のことにこんな風に口を出したことはない。そんな面倒な存在ならとっくに暇を出している。この学園の敷地内かつ卒業するまでという限定的な主従関係。その弁え方において、ラギーはとても優秀に振る舞ってきた。

 今までのレオナであれば、ラギーのこの提案は明らかな越権で、でしゃばるなと一喝して機嫌次第では解雇していただろう。ただ、今のレオナが感じているのは苛立ちというより困惑だった。オーバーブロット後も何事もなかったように今まで通りの関係に戻して、それでうまくやれているつもりだった。

(俺は何を見誤った?)

 しばしの沈黙が流れた後、ラギーはおもむろにブレザーのボタンを外し始めた。

 これだけは絶対にというものにはしがみついて食らいついて離してはいけない。それはラギーの矜持だ。今ここでどうしても、ラギーはレオナの承諾が欲しかった。

「おい……」

 せっかちで器用なラギーは部活の着替えもいつもあっという間だ。一瞬でブレザーはぱさりと床に落ちる。

 予想外の言動の連続に動揺を隠しきれないレオナの眼前に、ラギーはずいっとシャツをまくった腕をつきつける。

「は」

「オレの腕のヒビの跡、まだ消えないんスよ。慰謝料代わりにそのパーティーの日はオレにください。そんでオレと遊びに行きましょう」

 なんてめちゃくちゃな要求だとレオナは思う。ラギー本人だって、それはよくわかっている。

「金でも食いもんでも払ってやるから……」

「いやッス。パーティーよりもオレを優先してくれないと慰謝料にならないッス」

 ラギーはさらに腕をレオナに近づける。

 入学した頃ほどではないとはいえ、華奢な腕だとレオナは思う。その腕に這う普通の怪我では残り得ない形状の痕。それが自分がつけたものであることを意識すると、申し訳なさや後ろめたさ、後悔があるかは自覚できないが、何か曖昧な悦びのようなものがあるような気がしてレオナは直視できなかった。

「レオナさんもしかしてそのパーティー行きたいんスか? その女カワイイとか?」

 急にはっとしたようにラギーが言って後ずさる。本当に余計なことをした可能性に思い当たったことで急にしおらしくなり、その様子にレオナは少し安堵する。いつもの小賢しいが少し詰めの甘いところがあるラギーだ。

 それと同時に冷静にもなったレオナの中にチリっとしたものが走る。

(パーティーに行きたい? その女が可愛いかって?)

 レオナの答えは決まっている。パーティーに行きたいわけがない。家畜みたいに強制的に番にさせられるその状況がそもそも嫌なのに相手の評価などしても仕方がない。

 ラギーはやらかしたという顔をして縮こまっている。さっきまで何も怖くないような目をしていたのに、とそのギャップに笑いそうになるが、どういうつもりで今までしなかった差し出がましい提案をしてきたのかを、レオナはわかりたいと思った。いつもの打算でもなく、王宮にいた連中のような悪意でもなく、慰謝料の要求という形で自分を連れ出そうとしたそのことが、不快だとは思わなかったのだ。

「……悪いヤツだな。自国の王子を誑かすなよ」

 言うなりラギーはぱっと顔を上げてあたり一面の食べ物を見つけたときのような顔をした。

「レオナさんそれじゃ……」

 感情のままくるくると他人の表情が変化する様子を見て、こんな気持ちになったことがあるだろうか。レオナは思う。

「庶民流のサボり方ってやつを教えてくれよ、ラギー」

   ◇

「レオナさんはよーッス!」

 パーティーの日改めパーティーをフケて遊びに行く当日の朝、レオナはさすがに今日ばかりは起きて身支度を済ませていた。

 ラギーはいつだったかレオナが適当に譲り渡したお下がりの私服を着て、満面の笑みでレオナの部屋まで迎えに来た。

 王宮から手紙で召集されるような予定をサボらせているという自覚があるのかコイツ、とレオナは呆れたが、発案者のくせにビクビクされてもそれはそれで腹が立つのでまあいいかと気を取り直した。

「朝からデケエ声だな。それで今日はどうすんだよ」

「うーん適当にブラブラしましょ。レオナさんて同級生と街で遊ぶとき何するんスか?」

「同級生と遊ばねえ」

 レオナが答えるとラギーはまあそうッスよねと大して意外でもなさそうに答える。

「じゃあ午前中はこれでどうッスか」

 ラギーがさっと取り出して見せたのは麓の街にあるボウリング場の割引チケットだった。やや不自然な明るい笑顔の男女の写真と、1ゲーム無料の赤い文字が印刷されている。

 昔からあるその施設は老朽化はすすんでいるものの、小さな賢者の島内では貴重な遊戯施設として歴代のナイトレイブンカレッジ生に親しまれている。

「別に構わねえが」

「レオナさんボウリングやったことあります?」

「ない」

「オレもッス」

 遊興費の類はラギーにとっては節約の対象で、こういったある程度金のかかる遊びは奢りでなければ応じない。そしてほとんどの場合その奢りというのはレオナのおこぼれである以上レオナに経験がなければラギーにもないのは妥当なところだ。

 生まれ育った環境が違いすぎて、二人の間に共通の経験というのは多いとは言えない。だからこそ二人揃って初めての経験をするというのは稀なことであり、レオナは素直に面白そうだと思った。

「じゃあ行きましょうか!」

 出発前から楽しげなラギーの様子を見て、レオナはメインのスマホの電源をそっとオフにした。

 空はからりと晴れわたり、休日の外出を楽しむには最高の天気だ。

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