【レオラギ】彼氏がいるので合コンには行きません
「彼氏がいるので合コンには行きません」
文庫/54ページ(表紙等込)/ 400円(会場頒布価格) / レオラギ / 全年齢
6/25レオーネに安らぎをにて発行予定の小説本のサンプルです。
サンプルは本文の一部です。
卒業して仕事も順調だけど会社でなんとなく恋バナしづらいラギーがもやもやする話。
スラムの女性たちと恋バナしたりジャック・エースと恋バナしたりしてなぜ彼氏がいるって言えないのかを考えます。
タイトルの通り合コンには行かないので合コンのシーンはありません。
・ラギー視点がメインの話です
・エロなし肉体関係示唆のみ
・イベスト/メインスト両方を通っている二人としてお読みください
・スケモンリターンズの微ネタバレ
・両方夕焼けの草原で会社勤めしてます
・名前ありモブがいる(レオラギとの恋愛要素なし)
・ジャック・エース・ばあちゃんがいる(レオラギとの恋愛要素なし)
・捏造たくさん
・今回魔法要素・獣人要素がほぼないです
東1ホール25b sawa で参加します。
開始時離席するため取り置きを受け付けています。(なくならないと思います)
wavebox から
お名前(HNでOK)/ 本のタイトル / 冊数 をご連絡いただければと思います。
お越しの際に取り置きした●●(お名前)です、とお伝えください。
こちらの都合なのでお気軽にどうぞ。
感染症対策をしながらの頒布となります。ご協力お願いいたします。
イベント後通販予定です。
和気あいあいとした職場というのが自分の今の勤め先に対するラギーの評価だ。
良い人という程ではないが他人を蹴落としたり苦しむ顔を見たりするのが好きという連中ではないし、面白い人間が多いとも思う。
ただもう少しお互い無関心でもいいのではないかと思うこともある。この会社を選ぶ決め手の一つとなったおいしくて安いと評判の社員食堂でのランチタイムには、結婚やパートナーの話題があがることもしばしばのことで、今日も部の先輩であるジェニーがカレシにプロポーズされたという話で盛り上がっている。
「いいないいなー! 彼氏と長いんだっけ?」
「2年とちょっとかな。お互い仕事も順調だしそろそろ結婚しようかってなって」
「式呼んでくださいよ! 受付でも余興でもなんでもやるんで!」
「ライアン出会い目的だな?」
「ばれましたか! そろそろ新しい彼女ほしい……」
きゃあきゃあとはしゃぐ同席者たちにあわせてラギーは適当におめでとうございます! と祝いの言葉を伝える。
「ラギーは最近どうなの?」
「いやあ今は仕事が面白くてそういうのはないッスね」
笑顔でそう返すと硬派〜という声があがり、そのまま話題の中心がジェニーに戻っていった。
正直なところほっとしていた。こういう話題を振られるとどうしてもラギーは困ってしまう。学生時代からずっと付き合ってる人がいて、たぶんこのまま結婚するんじゃないッスかね、それだけのことがどうしても言えないから。
他の面子がオフィスに戻る中、缶コーヒーを買いたいからと一度離れる。甘くてミルク感の強いそのメーカーのカフェラテは最近のラギーのお気に入りで、商品入れ替えの対象にならないように祈っている。気軽に缶コーヒーを買える生活にも最近は慣れてきた。
無事目当てのものを買えて、オフィスフロアに戻り小走りで自席へ向かっていると先にある給湯室の方から先に戻ったランチメイトたちの会話が聞こえてきた。
「ラギーモテそうなのに彼女ずっといないなんてことある? いくら男子校出身とはいえ」
「でも休出とか突発の残業とかいっつも引き受けてくれるのラギーじゃん」
「だから彼女いるなら申し訳ないなと思って」
「あいつスラム出身でNRC入るまで学校いかないで働いてたって話じゃん? 入学してからもバイトしてたみたいだしえらいよなー。恋愛とかしてる暇なかったとか」
「あれはいると見てるね。前それっぽい電話かけてるの聞こえちゃったんだよな」
それに残りの人間が食いついて詳しく聞かせろだの例のばあちゃんじゃなくてとか好き放題言ってる。
(聞こえてるっつーの)
獣人の聴力をなめないでほしい。
悪気はないのだろうが本人のいないところで本人の話していない恋愛事情の話で盛り上がるのはあまり行儀のよくないことなんじゃないかと行儀というものと距離を置いているラギーは思う。
これが面白がってのことならラギーはもっと怒っていただろうが、そればかりでないことがわかるからこそ複雑な気持ちになる。だがプライベートの話を職場でしたくないのだって悪い隠し事ではないはずだとも思う。
夕焼けの草原の第二王子改め兄のファレナが正式に即位して王弟となったレオナ・キングスカラーとラギーは恋愛感情を介したお付き合いをしている。
就職の際に国外の企業も検討したし内定をもらう自信もあったが、それでも結局各国に支社のある大手メーカーの夕焼けの草原枠を選んだのは、自分はスラムに残るからお前は独立しろと言い切った祖母を心配してという理由もあるが、住む国すら異なるレベルの遠距離恋愛が想像しづらかったからというのもある。
秘密の恋というわけではない。
会社で話していないのは王族と一般人の恋愛がスキャンダルになるからというわけではない。レオナの方は職場でとっくにオープンにしていて、日頃の有能さもあるのだろうが記念日やイベントごとのある日は早く帰れと促されるらしい。あのレオナに対してそういういじり方をできる人がいるのが会社という組織のすごいところだとラギーは思う。
そしてもう長年一緒にいて今更冷めたから離れるとか他の誰かとそうなるとかそういうことを考えているわけでもない。
むしろもう結婚するつもりでいるし、唯一血のつながった存在である祖母にも紹介はすんでいる。
ラギーの生家に来て建て付けの悪いラギー作の椅子に座るレオナは場にそぐわなすぎてコラ画像のようだったが、祖母はレオナを気に入ったようでほっとしたものだ。
そういう話をなんでもないことのように、他の人たちのように、少し冗談交じりに話すことが、頭の中ではイメージできるのにいざそういう場面になるとのどにお尻の大きなイボイノシシがつまってしまったみたいに口に出せなくなる。
「別に言いたくないとか言ったら何か良くないことがあるとかじゃないのになんでオレはそういう話ができないんスかね」
「それを俺に聞くお前のデリカシーのなさがなんかクセになんだよな」
金曜の夜、一般的なサラリーマンの集まる大衆居酒屋よりは少し洒落ているがそれほど鯱張らない雰囲気の店で、レオナはワインを、ラギーはビールを片手に久しぶりに二人で食事をしていた。
久しぶりとは言っても朝から晩までずっと一緒だった学生時代に比べたらのことで、仕事がいくら忙しくても週に最低一度はお互いの家かあるいは外食で食事を共にはしている。お互い外出は特別好きなわけではないが、昔の名残でなんとなく食事の時間を二人で過ごすのが落ち着くのだ。
「レオナさんってちょっとシュミ変わってますよね。知ってたけど」
二人がこの店を気に入っている理由の一つである価格にしては質の良い生ハムをつまみながらラギーは言う。
「職場でオレのことどんな風に話してんスか。年下でかわいくて料理が上手いみたいな?」
「お前自己評価あんまり高くないくせにそういうところは図々しいのは俺のせいか? 別にお前のことどうこうは言ってねえよ。約束あるから帰りますとかしか言わねえ。普通だろ」
ちぇ、と口を尖らせるラギーにコイツはどんな内容を期待してたんだとレオナは思う。レオナもNRC時代を除けばあまり気安い人間関係を築いてきた方ではなく会社の人間のノリに戸惑うこともある方なのだが、ラギーがそれを面白がるのであまり詳しくは話していない。
「ベラベラプライベートの話をするような機会がそんなにあるわけでもないしな。お前も口は上手いんだから適当に躱せばいいだろ」
「それがなーんか上手くできないからモヤモヤするんスよ」
「じゃあ原因をちゃんと掘り下げるんだな。俺は別にお前が周りに俺のことをどう言ってるかは気にならないしな」
「むう……」
ラギーの眉間にシワが寄っているのを、昔勉強を教えていたときを思い出しながらレオナは面白そうに眺めている。
「俺はそのままでもいいと思うがお前が何か遠慮してるとか人に話すと俺に何かあると思ってんならそれは気にするなとは言っておく。お前まさかまだ釣り合わないとか身分差がとか思ってるんじゃないよな? だとしたらちょっとオハナシが必要かもなあ?」
愉快そうだがどこか窘めるようなレオナの声色になんだか安心する。この人の隣に立つのにふさわしい男になりたいと思って卒業してからずっとレオナのいない場所で頑張っているつもりだが、水を大地に染み込ませるようにラギーを諭す言葉にいつだって甘やかされているような気持ちになるしそれが心地良いと思う。
(この人はもう、オレたちの関係が揺らぐことはないって確信してるんだなあ)
そんな風にラギーは思う。
「……あんまり気にしなくなったけど気にはしますよ。この年になると結婚も意識するし、そうなるとやっぱり家のことも関係ないとは言えないんじゃないかなって」
「そこまで考えてもらえるとは光栄だな」
レオナはさっきからずっと上機嫌だ。
「あーやっぱりオレに意気地がないからなんとなく言えないんスかね!? 情けないッス。ごめんレオナさん」
思わず呻いているとレオナはニヤニヤしたまま、だけど優しい声で言う。
「意気地がないって話でもねえよ。お前はばあさんや故郷の連中には話してんだろ。俺はそれで満足してんだよ。逆に俺は実家でお前のことは簡単にしか伝えてないしな」
後継争いを起こさないために自分は生涯子を設ける気がないと兄王に伝えたことで、かえって家族の尊さや自分の血を継いだ子供の可愛さを説かれるようになってしまったのはレオナの頭の痛いところだったが、それに腹を立てるまでは至らなくなったのはレオナにとってラギーとの関係がもう絶対のものになっているからだ。ただ、それでも。
「お前のことを兄貴とか家の連中に話さないのは踏み込まれたくないからかもな。今さら何か言われたってどうもできないだろ」
それにはラギーも同意だ。誰かに否定されて諦められるほどレオナとの関係は単純でも矮小でもないのだ。食べられないけど大切な獲物にもう既に食らいついてしまったのだから、いまさらどうやって離せばいいのかわからない。
「職場の奴らなんてお前にとってそこまで確執のある間柄でもないだろ。関係が構築できたらそのモヤモヤとやらも消えるんじゃないか? 仕事だけできればそれでいいって割り切ってもいいと思うが、心を許せるようになれば仕事だってやりやすくなるしな。まあ焦るなよ」
いきなりお前がお友達を作って俺を放って毎週バーベキューに行き始めたら俺は傷つくけどなあ?
レオナが冗談めかして言うので、キャラじゃないでしょ、と言いながらやっとラギーも笑った。
肉団子のたっぷり入ったトマトソースのパスタが運ばれてきたので、温かいうちにシェアして二人で食べた。やっぱりこうして食事をしながらいろんな話をするのが、昔から一番好きだなとラギーは思った。
◆
タクシーで移動してレオナの住むマンションから一番近いコンビニで降りると、必要な買い物をしてそこからは二人で歩く。アルコールはほどほどにして明日は休日。まだまだ夜は長い。
夜のコンビニというのはなんとなく心を浮つかせる効果があって、ラギーはマジフト部絡みの用事で街に出たときにレオナにホットスナックを奢ってもらっていた頃のはしゃいだ気持ちを思い出してしまう。そしてちゃっかりカゴの中に入れたナントカというパティシエとコラボしたという触れ込みのドーナツは今レオナが持つビニール袋の中に入っている。
出会った頃のレオナよりも年上になっているけれど、この後輩ムーブはなかなか抜けそうもないとラギーは思う。年齢差があるというだけではなくて、レオナ自身が大人―というよりは上に立つものとしての所作を身に着けた人だというのは自分が大人になった今よくわかる。
自分もレオナとは違う意味で早く大人にならざるを得ない子供だったとは思う。選択の余地がなかったからそれが良いことか悪いことかを判ずるのは意味がないと思っているが、王族とスラム育ちという全く違う立場の自分たちの間にかすかなシンパシーを生んだ要素の一つではあったはずだ。しかしラギーにはそれでも自分を肯定し庇護してくれる祖母の存在があった。だから例えばの話だが、頭を撫でてもらうとか抱きしめてもらうとか、そういうときに自分の体を差し出せるかどうか、甘えたときに仕方ないと言ってもらえると信じられるかみたいなところで少し差が出るんじゃないかというのは、レオナとこういう関係になってすぐくらいに感じていた。
ビニール袋の中身とこれからすることを思い、溶けて混ざれば自分もレオナみたいに物事を考えられるようになるのだろうか、とラギーは考える。しかしどれだけ体を重ねてもどれだけ同じ時間を過ごしても、レオナとラギーは別の人間で、お互い全然違う存在だということを時を経るごとに実感するばかりなのだ。
そもそも出会った頃のちょっといけすかない王子様だったときも、その後対価をもらっていろいろやっていたときも、レオナがオーバーブロットを起こして距離が縮まってからも、憧れみたいな気持ちはあってもレオナになりたいという気持ちになったことはないような気がする。ただ今となっては自分なんかじゃ絶対になれないからという卑屈な気持ちで線引きをするのではなくて、レオナが求めてくれた自分という存在が結構気に入っているからレオナみたいじゃなくていいというのが今のラギーの思いだった。
もちろんたくさんの「教育」をレオナから施されている以上影響はこれでもかというほど受けているし、周りから指摘されたこともあるが言動が似てきているという自覚も今はある。
元々スラムにいた頃は言葉遣いが祖母に似ていると言われることが多かった。育ての親だし、一番近くにいる人だし、何より祖母が大好きだから、多少の悪意をもってそう言われることがあっても全然構わなかった。祖母からの愛情と祖母への愛情によって形作られたものが、悪いものなわけがないと思っていたから。だが、さすがにレオナの話す言葉や仕草が自分の中に根付いてしまっていることに気づいたときは、その染まりやすさとそれをダダ漏れにしてしまっていたことが恥ずかしかった。大切なのにかわりはないから無理になかったことにしたり直したりすることはなかったけれど。
そういう「同じ」と「違う」のちょうど良さが自分たちの相性の良さの源なのかもしれない。どちらも愛しい要素であることに変わりはないのだ。だから今自分が抱えているモヤモヤも、周囲に話しても良いと思えるようになるかもしれないし、自分たちの関係を言わないままでも良いと思えるようになるかもしれない。そう思うと自分の中の焦りのようなものが少し薄れていく感じがする。
せっかくの花金お泊まりデートなのに悩んでいるのがもったいなく感じてきて、ラギーは並んで歩く自分の側、レオナのビニール袋を持っていない方の手をそっと握った。
「なんだよ」
「嫌ッスか」
「嫌じゃねえよ」
レオナはそう言うと少し強く握り返してくれたのでラギーはシシッと笑った。飲んだ帰りにコンビニに寄って彼氏の家に並んで向かってるのだから、浮かれるのは仕方ない。
「お前は」
続く言葉を待って見上げると、レオナは少しうれしいようなためらうような複雑な顔をして続けた。
「……そんなにしっかり掴まなくても誰も盗らねえよ」
「ええ?」
変なレオナさん、と言ってラギーはぶんぶんと手を前後に振った。
「昔はもっとドライなやつかと思ってた」
「それはレオナさんもじゃないッスか。手とか絶対つないでくれなそうだったし。さわるなとか言って」
「それはそうだな」
レオナは気づいていた。ラギーが手放したくないと思うものを他人に見つからないように隠して大事にしたがることを。価値があるから見せびらかすとか、自慢するとか、そういうことをしない性質なのだ。そしてそれは大切なものが自分から離れないことを信じられていないことの裏返しでもある。だから複雑な気持ちになる。そう思わせてやれてないことへの苛立ちと、そこまで思われていることへの高揚と、こんな感情を抱く相手はレオナにとってラギーだけだった。
しかしラギーはレオナの所有物ではなく、物を考え感情を持つ別の生き物であることもレオナはわかっている。そう思わせるなんていうのが傲慢であることも、レオナは理解しているし、お互いに少し歪な価値観を丸く均すための待てができないほどもう子供ではない。だからラギーの悩みも、本人か時間が解決するのをただ見守ってやればいいのだ。こうやってすぐ手をつなげる距離にいるのだから。
マンションまであと少しの道を、二人は手をつないだまま歩いていくのだった。
0コメント