【レオラギ】かなしいひとだけわかること

「かなしいひとだけわかること」
文庫/36ページ(表紙等込)/300円(会場頒布価格)/全年齢

表紙の地の色はクラフト系の紙の色になります。

2章後お互いが特別だということに気づいてそれを共有する二人の話です。

・悲しい話ではないです

・かなりとてもリリカル

・添い寝まで

・レオナが自分のことをよくしゃべる

・過去捏造/オリキャラモブ/独自の魔法設定 など

・自己解釈による妄想を多分に含む



 筒状のガラスの容器におさめられた繊細なつくりの女神像は、確かに涙を流していた。

「おおー泣いてる!」

「どういう仕組みなんスかねー? 水魔法?」

「説明によると、水ではなくて水に見える魔力の奔流らしい」

「ああだから拭き取らなくてもいいんだな!」

 その日の魔法史の授業は演習の名目で、かつてある地方で興り大流行した宗教団体で使われていた魔法道具を実際に手にとる、という内容だった。普段は座学オンリーでつまらないことこの上ない授業なだけに、生徒たちははしゃいだ様子であれこれ言いあいながらその道具を観察している。

 涙を流す女神像と呼ばれるそれは、20センチ程度の大きさのケースと木彫りの女神像で一そろいになっていて、人が手にとるとケース内の像が涙を流し始める。涙を流させるための魔法の構造式は既に失われていると配布されたプリントには書かれていたが、ただ涙を流すだけではせいぜい土産物か面白グッズ程度にしかならないし技術が廃れるのも道理だとラギーは思った。

「稀に涙を流させることができない人物もいる、って書かれてるけど」

 同じ班のカリムはきょろきょろとあたりを見回してみるが、どうやらこのクラスにはいないらしい。

「長年この演習をやっているが私もまだ見たことがない」

 教室内を歩いて各班の様子を見ていたトレインが、半分眠りに落ちかけていたシルバーの肩をゆすりながらそう言った。

「トレイン先生も見たことがないなら、本当に全然いないってことなんだな」

 何がそんなに悲しいんだー? 元気だせよ、とカリムは容器をつつきながらつぶやいた。にこにことしている彼とは対照的に、小さな女神は静かに涙を流し続けていた。

 こんなものを使って上手いこと儲けた人たちがかつていたんだな、とだけラギーは思った。

「涙を流す女神像?」

「レオナさんなんか参考になりそうな本知らないッスか? レポート書かなきゃいけないんスよ」

 その日の夜、とりこんでたたんだ洗濯物を届けにきたついでに、ラギーはレオナに尋ねた。

 トレインは超人的な記憶力で過去に提出されたレポートの内容を覚えているらしく、上級生が過去に提出したものをそのまま、あるいは少し改変した程度で提出するとすぐにばれる。だが参考文献を聞くくらいなら問題ない。もともとの読書量の面でも、学校への在籍期間の面でも、レオナにこうした質問をするのは効率がよかった。

「精神感応か精神探知系の魔法書探すのが妥当じゃねぇか。ウソ発見器なんかの魔法道具に関するあたりあされば何かしら書けるだろ」

「精神感応? なんで?」

「お前授業中話聞いてたか?」

「授業に出てすらいないレオナさんに言われたくないんスけど」

 口をとがらせてラギーが反論すると、レオナはため息をついて渋々解説を行った。

 涙を流す女神像は魔法が使えない者でも涙を流させることができる、あらかじめ内蔵された魔力が、像を持つものの精神に反応して涙状にこぼれるようになっていて、再び像に流れた魔力が戻っていく、という内容をレオナは説明した。

「オレらの魔力に反応してるわけじゃないってことか」

「違うな。もともとが宗教勧誘に使われた道具だ。魔法が使えるやつが持ったときしか泣かないんじゃ、信者の幅が狭まるだろ」

「なるほど。確かに魔法が使えない人が魔法を使えたみたいにみせるほうがいいアピールになるッスね」

「金のにおいがすることになると理解が早いな」

 レオナは少し呆れた顔をしたが、ラギーのこういうところをよくわかってもいた。

「構造式は失われているが、文献上では精神の構造への感応式の一種だとある」

「精神の構造?」

「心にあいた穴やすきまにたまる澱に反応してるって話だ。澱が多ければ涙も一気に流れるようになってて、あなたが傷ついているから女神様も泣いていらっしゃいます、女神様はすべて御存知です、って勧誘するんだとよ。そこそこ高度なことやってるわりにアウトプットがしょぼいから道具化して大量生産するのは難しくなかったんだろう。上手いやり方だよな」

 ラギーが興味を持ちそうなところにポイントを置いた説明だ。レオナは意外とこういうことが上手い。自分の群れをよく見ている。

 だが、今回ばかりはラギーは別の点にひっかかりを覚えた。

「え、オレもシルバーくんもカリムくんも――他の奴らも全員涙出ましたけど」

 心の穴? オレの? ラギーは疑問に思った。他の二人だってそうだ。自分たちはあくまでのんきに授業を受けていただけだ。

「……誰でも何かしらそういう部分があるってことだろ」

 金が欲しいとかな、と付け足して言ってレオナはニヤリと笑った。

「オレのときの女神像、金が欲しくて泣いてたんスか!?」

「俗っぽい女神サマだな」

 レオナがニヤニヤとラギーを揶揄うので、そんなことで泣かせてオレ罰あたらないかなあと乗ったが、ラギーは本当は別のことを考えていた。

 レオナの一瞬の表情をラギーは見逃さなかった。

 誰でも何かしらそういう部分がある――。

 レオナさんも? と聞こうとしてその言葉を飲み込んでしまった。そのことがしばらく頭に残っていた。

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